~術中体温・体温測定を試みて~
内視鏡機器・技術の進歩は目覚ましく、内視鏡治療はより高度化してきている。中でも、内視鏡的粘膜下層剥離術は、(以下、ESD)病変の大きさや潰瘍瘢痕の有無に関わらず、一括完全切除を可能とした。当院では、2000年に導入し、現在年間約100件施行、その適応は食道・大腸へと拡大してきている。
術中の止血処置や剥離操作に難渋する症例は、所要時間を大きく左右する。予測に反して治療が遅延し、突然の多量の発汗・四肢冷感の出現など一般状態の変化や、治療後に筋肉痛様の痛みを訴える症例を経験し、セデーション下・同一体位で、治療が長時間に及ぶ事が患者の身体にどのような変化をもたらすのか疑問に感じ、体温と体圧の変動に視点を置き、今回の調査に取り組んだ。
鎮静剤使用前後の体圧と体温測定を行い、安全・安楽な内視鏡治療の提供とESD内視鏡看護の標準化を目指す。
1)セデーション前・直後の体圧測定
・症例1 56歳 女 BMI 24.8
・症例2 58歳 女 BMI 22.4
ケープ製 プレッシャー スキャニングエイド セロ CR-270を使用
ベッド上で左側臥位となった状態で、鎮静剤を静注する直前・直後に、上腕部・大転子部の体圧を測定
2)体温の測定
・77歳 男 治療所要時間 約6時間
コーリン社製 生体情報モニター Mone BP-88Siを使用
治療中の体温を5分間隔で測定
症例1 |
鎮静剤使用前 |
鎮静剤使用直後 |
|
上腕部 |
15.4 |
26.9 |
74%上昇 |
大転子部 |
41.0 |
55.1 |
34%上昇 |
症例2 |
鎮静剤使用前 |
鎮静剤使用直後 |
|
上腕部 |
25.6 |
36.1 |
41%上昇 |
大転子部 |
17.9 |
33.3 |
86%上昇 |
治療中の体温は、最低34℃、最高36℃であった。
治療開始後2時間で、徐々に体温が下降し始め、3時間後には最低体温となった。保温を開始し、体温は少しずつ上昇した。

1)鎮静剤使用前・直後の体圧測定
血管の内圧は32mmHgであり、それ以上の圧力が加わると血液が流れなくなり、皮膚組織が破壊されると言われている。鎮静剤使用直後、両者共32mmHgを上回る体圧の上昇がみられた。治療には鎮静剤と鎮痛剤を併用するため、強い睡眠作用と全身の筋弛緩により、左半身には更に大きな圧力が生じていると推測される。この状態が持続すれば、かなりの負荷がかかっており、長時間の同一体位は、治療後の筋肉痛様の痛みを引き起こす要因の1つと言える。
2)体温の測定
治療の経過と共に体温は下降している事が明らかとなった。その因子として、鎮静剤等の薬剤使用や出血、繰り返し行われる洗浄によるものと推測される。治療中に見られた四肢冷感・多量の発汗や震えは、体温変動による身体反応として、熱の産生と放出を保つため出現していたと思われる。
1)術中体位を安定させ安楽な体位保持の為、体圧分散枕を使用してきたが、この調査で鎮静剤使用後、左半身への体圧上昇が明らかになった。今後、体圧分散マトレスの使用を試み、年齢・体圧を考慮した対象に体圧測定を行い、分析・検討していく。
2)治療が長時間に及んだ場合や症例に合わせて、保温の配慮や塞栓予防目的でプレキシパルスを使用してきたが、使用基準がなかった。結果を基に、ESD内視鏡看護基準として体温管理・安楽な体位保持を定め、患者管理をしていく。
治療中の患者管理は、今や内視鏡室に於いても、手術室に於けるそれと同様のものが求められてきている。内視鏡技師のスキルアップは、増々重要な課題である。
Heart5;209-228,1930
2) 西田 文子:手術中の体温低下はどうして起こるか?Nrsing Today2006,10月臨時増刊号;66
3) 度会 京子 他:高齢者における内視鏡検査時の循環動態の検討,老年消化器病1991;Vol.3,(2) 127~132
4) 斉藤 大三、田尻 久夫:ESDの周術期管理