
当院は健診センターを併設する消化器専門病院で、平成18年度は、上部、約17000件、下部、約4600件を実施しました。ESDは2000年より導入し、適応となる食道、胃、十二指腸、大腸腫瘍に対し、積極的に治療を行っています。

ESDは切除範囲が大きく、治療が長時間に及ぶことがあります。
対象者の高齢化やハイリスク患者も多く、また、適応拡大病変、適応外病変を取り扱う件数も増えており、これまで以上に術前には充分なインフォームドコンセントを行い、患者及び家族が内視鏡治療について理解した上で、より安全で安心して治療に臨めるよう医師のみでなく内視鏡技師、看護師が術前から術後を通じて患者との関わりをもつことが大切であると考えます。そこで、安全・安楽な内視鏡治療の提供とESD内視鏡看護の標準化に向け、患者のニーズにあったケアをするため取り組んできたので、その経過を報告します。
目的 情報伝達方法の確立と安全なよりよい看護の提供
まず、内視鏡治療パスと術中看護記録を作成しました。
こちらが、内視鏡治療パスです。患者の身体的状態が把握でき、緊急時も迅速に対応ができるよう患者情報が網羅されています。また、使用機器のチェックや医師からの情報、外来看護師からの申し送りなど、記載できるようになっています。

こちらは、患者用パスです。
術前・術後のスケジュール・注意事項をのせたパスを患者に前もって渡し読んでもらうことで、治療の流れが理解でき、不安の軽減が図れるようになりました。いつでも、誰でもが統一した内視鏡治療の提供ができる事、また、「チーム医療」として治療に関わる他部署との情報交換のツールに重点を置き「医療・看護実践の標準化」を図りました。

こちらが、術中看護記録です。
治療に必要な情報把握がしやすく、病棟との情報の共有化・継続看護に重点を置き経時的に治療・処置の内容を記載する様式とし使用薬剤は下段にまとめ記載もれや請求もれのないようにしました。
次に術前・術後訪問を開始しました。
術前訪問では、患者の治療に対する認識や理解の確認ができ、また、患者が疑問を持ったまま治療へ進む事のないように医師の補足説明と当日の治療の流れについて説明しています。こちらが、訪問時使用しているパンフレットの一部です。10ページにわたり治療当日の流れ、治療時の説明、治療後の様子を掲載してあります。術前術後訪問について患者アンケートも実施し、よい評価を頂いています。患者との関わりが少ない内視鏡スタッフには、とても貴重な時間であり、患者の治療の理解と不安の軽減に繋がっています。
次に治療体制の見直しをしました。
当初、医師は術者1名でしたが、緊急時の対応や患者管理の面からも必ず2名体制としました。介助者は処置具の直接介助、患者看護など3名で担当していましたが、スタッフが日々変わる事により、介助者によって介助技術、患者が受ける看護に異なる状況がありスタッフを固定する必要性があると考えました。5名のスタッフで2か月間、担当固定制とし、各ポジションをローテーションし経験を重ねる事で、ESDに関する知識、技術を習得する事ができ、各ポジションの役割も理解する事ができました。現在は、ESDチームとして医師2名が15分交替で治療をすすめ、デバイス操作・患者管理は2名の技師・看護師が担当しています。
ESD導入時は、スタッフの治療に対する知識も浅く、新しい高周波装置、次々に開発され使用されるデバイスの特性、予測しづらい治療時間の中での患者管理など満足のいく介助がなかなか出来ずにいました。更にその後、対象部位、適応病変が拡大され、剥離困難な症例や、出血などにより予測時間を越える症例を経験し、医師の熟練した技術に加え、治療に関わる技師として、安全面を重視した共通認識をもつ必要があると考えました。
そこでスタッフ教育のための看護業務遂行基準と評価表を作成しました。看護業務遂行基準と評価表を作成したことで、ESDの介助業務全般を振り返ることができ、治療に関わる技師としての役割を再認識することができました。こちらが基準で、ポジション毎に作成してあります。それぞれの目的を明確にし、その後もスタッフ教育に役立てています。また、ESDに関する知識を深めるため勉強会、研究会などに積極的に参加し介助技術や看護のポイントなどを学びスキルアップを図っています。
こちらは評価表です。評価表で自己評価と指導者評価との相違で改めて認識できたことや、自分を評価する機会を得たことは個々のレベルアップ、介助者の技術レベルの向上には、よい成果を得ました。
その後、ESD内視鏡看護基準作成への取り組みとして、鎮静剤使用前後の体圧と体温測定を行い、以下の結果を得たので紹介します。
術中の止血処置や剥離操作に難渋する症例は、所要時間を大きく左右します。予測に反して治療が遅延し、突然の多量の発汗・四肢冷感の出現など一般状態の変化や、治療後に筋肉痛様の痛みを訴える症例を経験し、セデーション下・同一体位で、治療が長時間に及ぶ事が患者の身体にどのような変化をもたらすのか疑問に感じ、体温と体圧の変動に視点を置き、今回の調査に取り組みました。
1)セデーション前・直後の体圧測定ではケープ製の簡易体圧測定器を使用しベッド上で左側臥位となった状態で、鎮静剤を静注する直前・直後に、上腕部・大転子部の体圧を測定しました。
2)体温の測定の対象は、治療所要時間 約6時間の患者でコーリン社製 生体情報モニターを使用し治療中の体温を5分間隔で測定しました。
両者とも鎮静剤使用直後、上腕部・大転子部に体圧の上昇が認められました。
上腕部 15.4 26.9 74%上昇
大転子部 41.0 55.1 34%上昇
上腕部 25.6 36.1 41%上昇
大転子部 17.9 33.3 86%上昇
2)体温の測定
治療中の体温は、治療開始後2時間で徐々に下降し始め、3時間後には最低体温となりました。保温を開始し、体温は少しずつ上昇しました。
1)鎮静剤使用前・直後の体圧測定
血管の内圧は32mmHgであり、それ以上の圧力が加わると血液が流れなくなり、皮膚組織が破壊されると言われています。鎮静剤使用直後、両者共32mmHgを上回る体圧の上昇がみられました。治療には鎮静剤と鎮痛剤を併用するため、強い睡眠作用と全身の筋弛緩により、左半身には更に大きな圧力が生じていると推測されます。この状態が持続すれば、かなりの負荷がかかっており、長時間の同一体位は、治療後の筋肉痛様の痛みを引き起こす要因の1つと言えます。
2)体温の測定
治療の経過と共に体温は下降している事が明らかとなりました。その因子として、鎮静剤等の薬剤使用や出血、繰り返し行われる洗浄によるものと推測されます。治療中に見られた四肢冷感・多量の発汗や震えは、体温変動による身体反応として、熱の産生と放出を保つため出現していたと思われます。
1)術中体位を安定させ安楽な体位保持の為、
体圧分散枕を使用してきましたが、この調査で鎮静剤使用後、左半身への体圧上昇が明らかになりました。今後、体圧分散マトレスの使用を試み、年齢・体圧を考慮した対象に体圧測定を行い、分析・検討していきたいです。
2)治療が長時間に及んだ場合や症例に合わせて、保温の配慮や塞栓予防目的でプレキシパルスを使用してきましたが、使用基準がありませんでした。結果を基に、ESD内視鏡看護基準として体温管理・安楽な体位保持を定め、患者管理をしていきたいです。
治療中の患者管理は、今や内視鏡室に於いても、手術室に於けるそれと同様のものが求められてきています。最近では、食道ESDは、全身麻酔下で施行しており内視鏡技師のスキルアップは、増々重要な課題であると考えます。